◆防振ハンドルとその理論

防振ハンドルに要求される条件

コンクリートブレーカ、インパクトレンチ、チッピング、ハンマーなどの手持 ち振動機械工具では、作業者にとって有害な振動の発生を伴うものですから、 適切な防振対策を施す必要があります。それには、工具本体の振動を低減させる 方法と、工具本体に防振ハンドルを取付ける方法がありますが、前者は工具本体 の作業能率の低下をきたすために、主に後者の防振ハンドルによって工具本体か ら作業者の手に伝達される振動を低減する方法がとられています。
この防振ハンドルに要求される項目を列挙すると、次の様になります。

1.多方向性の十分な防振効果を有すること。(図1参照)

2.小型軽量であること

3.作業性を損わない十分な腰の強さを有すること。

4.構造が簡単で安価であること。

これらの4項目を同時に満足するものが理想的な防振ハンドルということにな ります。

防振動ハンドル理論図1 エスアールシー

従来の理論と防振ハンドル

これまでに防振形と称するハンドルが市場に多く出まわっております。理論的 にあまり根拠のないものも少なくありませんが、従来の振動絶縁理論に基づいて 開発されたものもあります。
そこで、その理論についてまず簡単に説明します。

防振動ハンドル理論図2-3 エスアールシー

図2において、工具本体が振幅Uによって定常振動下にあるとき、ばね定数kのば ねと減衰係数cダンパによって支えられた質量mのハンドルも振幅Xによって定常 振動しますが、両振幅の比X / U(これを変位伝達率と呼ぶ)が1より小さいほど、 ハンドルの防振効果が向上したことになります。そこで、工具本体に作用する角振 動数ωとこの変位伝達率の関係の概要を表しますと図3のようになります。この図 は横軸に角振動数、縦軸に変位伝達率がとってありますが、防振効果が得られる のは、ハンドルの固 有振動数√k/m以上の角振動数領域であることがわかります。
しかも固有振動数よ りも高い振動数程、防振効果が向上します。従って、この理論 に根ざして防新効果を得るには、防新ハンドルの固有振動数を出来るだけ小さくす る必要があります。固有振動数を小さく するには、ハンドルの質量を大きくするか、 ばね定数を小さくすればよいわけで すが、質量を大きくすれば重くなり、ばね定数 を小さくすれば、ハンドルの腰が 弱くなり作業性が損なわれます。つまり、この理 論に基づいたのでは、前にあげ た項目2と項目3同時に満足させることはできま せん。結局、従来の防振ハンド ルでは両者の兼ね合いがむずかしく、防振効果も 不十分なものにならざるを得ませんでした。

新しい防振理論に基づく防振ハンドル

ところが、「振動の節を活用した振動絶縁法」と呼ばれる新しい防振理論 が発表されました。(背戸、振動の節を活用した振動絶縁法の研究、(第1報、第 2報)日本機械学会論文集49巻439号C編(昭58)P341、49巻447号、C編(昭58)P2092。)振動の節とは、定常 振動下で振幅が零になる点のことです。振幅が雫の点では理想的な振動効果 が得られたことになります。この理論では、希望する場所にその振動の節を作り出すように構造体の形状をコンピュータを利用して決定することが要点になっております。従って、防振ハンドルをその構造体と考えればよい わけです。しかも、この理論では前述の防振ハンドルに課せられた4つの用件 を同時に満足できることが明らかにされております。まさに防振ハンドルにうっ てつけの理論といえましょう。
当社では、同博士の指導を得て、その理論を応用した防振ハンドルを開発し ておりますので、以下にその理論の概要を説明します。

防振動ハンドル理論図4 エスアールシー

図4(a)には2個の棒状ばねと2個の質量、および質量1に取り付けられた筒から なる構造体を示します。棒状ばね1の一端が振動体に取り付けられて、構造体全 体が上下に振動するとき、同図(b)に示されるように、ある振動数で棒状ばね2上 の一転に振動の節が形成されます。従って、この節を握れば手には振動が伝わり ません。しかし、棒状ばねを握ることは実際的ではありませんので質量1に筒を取 り付けます。この筒上でも振動の節が形成されますから、筒上の節の部分を握れ ば手に振動は伝わりません。ある振動数の範囲で筒上の所要の場所に振動の節が 形成されるように構造体の形成を決めることがこの理論の骨子です。
次に防振ハンドルの設計この理論を応用した例を紹介します。

防振動ハンドル理論図5 エスアールシー

図5は防振ハンドルの理論解析モデルです。ここで、m。は筒の先端に取り付け られた質量を表します。このm。の大きさによっても振動の節の位置が変えられま す。後に述べる実際の防振ハンドルでは、このm。が活用されております。振動 体の振動数が90Hz~120Hzの範囲で変動するものして、ハンドルの重量を260gf以 下に抑える条件のもので数値計算によって決定された防振ハンドル(構造体)の形 状を図6に示しております。

防振動ハンドル理論図6 エスアールシー

図7、8はこの形状によって計算された握り上の変位伝達率と振動モード形です 。

防振動ハンドル理論図7 エスアールシー

図7では、2個の共振点が見られますが、高いほうの共進点がハンドルの固有振 動数に相当します。低いほうは棒状ばね2と質量2によるものです。図7に見られる ようにこの2個の共振点の間の広い振動数範囲で変位伝達率が十分に低下された、 つまり、防振効果の優れた領域が得られております。しかもハンドルの固有振動 数は高いところにありますから、ハンドルの腰はきわめて強くなっております。

防振動ハンドル理論図8 エスアールシー

図8に示した振動モード形は折れ曲がった曲線がハンドル軸のモード形、直線が 握りの振動モード形を現しております。この図によって、90~100Hzの範囲で握り 上に振動の節が形成されており、それ以上の振動数では節はハンドルの先端部に 移行しますが、それでも手に伝達される振動は十分低減される様子がよくご理解 いただけると思います。

原理説明のために図6の防振ハンドル形状を用いましたが、図9のような防振ハンドル形状でも同様に振動の節が形成されます。この場合、防振ゴムの部分は図4 に示した質量1と棒状ばね2を兼用しておりますのできわめて構造が簡単で製造コ ストも安くできます。しかも、防振ゴムの作用によって、図7に現れていた低いほ うの共振点はよく抑制される波及効果が得られます。そこで当社の開発した防振 ハンドルは主に図9の形態をとっております。そして、握り上に振動の節が得られ るようにコンピュータを駆使して最適設計を施しております。

防振動ハンドル理論図9 エスアールシー

このようにしっかりとして理論的理念に基づいて最適設計された防振ハンドル では、従来の防振ハンドルでは考えられなかった、小型、軽量で防振効果が優れ 、しかも腰が強く作業性のよいものが安価に提供できるに至りました。
以下に、各種振動工具に取り付けた新開発の防振ハンドルの効果を御覧いただ こうこと思います。…